WORKS

切り離された細胞は誰のものか
2025.05.04 HAE, 髙﨑太介(e/s Production)
福原のカルテに「バイオアーティスト」と書かれた時には、研究室を跨いだ凍結細胞の移設がこれほどの
難題であるとは思ってもいませんでした。乳がんの術後、治療を優先しながら、作品用の細胞が凍結保存できたと主治医から聞いた私たちは、研究者たちの協力を仰ぎながら細胞の移設、培養を行うつもりでした。さらには本人の血液から生成された再生免疫細胞と対峙させ、がん細胞そのものが持つ生存本能と異物をキャンセルする働きを観察することで、私たちが普段無意識に口にする「自分」とは一体何を指すのかを議論するための材料を得ようと考えていました。
一方で、ヒトから取り出された細胞は、個人の超機密情報が詰まった媒体であり、法的判断、倫理観、慣例など複数の視点からなる複雑な課題が浮上しました。
言い換えれば、切り離された細胞から自己実在について考察を行うことが目的だとすれば、それは既に始
まっていたのです。当初の想定より遥かに壮大なものとなった計画は本記録映像を作ることによって、ようやくスタートラインに立とうとしています。私たちの挑戦は続きます。